BOLWONINGEN
デンボッシュの球形住宅


デンボッシュの郊外のニュータウンに球形住宅50戸が市の住宅公社によって、1984年に建設された。

建築家ドリス・クレイカンプ(Dries Kreijkamp)の設計提案を採用したもので、単身者あるいは夫婦二人世帯向けの住宅である。

池の脇にちょうど宇宙船が着陸してきたといったようならべらているが、正三角形グリッドをもとに配置しているため、受ける印象は有機的なものになっている。

住戸の容積は124m3で、延床面積は55m2とかなり小さい。敷地面積は60m2で、建物が地面に接している面積は6.75m2で残りの、約53m2は庭やテラスとして利用できるが、玄関としか繋がっていないため、ほとんど利用されておらず、植栽だけが行われている。

設計者は球形空間が最小外表面積で最大の容積を得られることから、特に暖房用エネルギーの節約になるといった期待から、この球形住宅を設計したという。

確かに光熱費は月額100ギルダー(約8500円)程度で安いが、夏の暑さと乾燥しすぎには入居者の評判が悪い。これは球形のためい日射を受ける面積が時間に関係なくいつも一定であるといったことからくるものと想われる。

球形の部分の直径は5.5m、工場で上下二つに分けて成形された(P)GVC製(現在問い合わせ中であるがGRC=ガラス繊維補強セメントであると思われる。)のサンドイッチ材で、内部に10cmの厚さのロックウールが充填されている。

1階の円筒部分は直径2.88m、高さ2.5mのプレキャストコンクリート製である。 部材はいずれも工場生産され、現場では基礎工事を行い、その上に円筒構造を設置、さらにその上に球体構造を載せるだけで、一戸2日で工事は完了する。

新しい材料、窓のほとんどが天窓になっているといこともあり、すでに50戸中、15戸で雨漏りが発生している。

狭い、遠い、居住性がよくない、雨漏りがするといったことから、現在かなりの住戸が空き家になっている。

さらに閉所恐怖症(自覚はないがなんだか気分が悪くなるといった場合が多い)の人にも不向きである。直線や直交面で囲まれた空間に住み慣れたわれわれは、円形まして球形の中で暮らすと、方向性がなく精神的にストレスを感じるようである。

PAOチューブ

大学の先輩であるPAO設計の吉田勝さんの設計された、PAOチューブという建物を借りようと思ったことがある。これは直径3.4mのヒューム管を並べて、その上にトップライトを組み込んだプレキャスト製の円錐形の屋根を載せている。

1住戸は直径3.4mの部屋8個から構成されている。一つの部屋の面積は9.1m2で6畳よりやや狭い。しかし6畳と違って落ちつかない。円とか球は未来的な感覚はあるがなかなか難しい。

最下階平面図

玄関のある最下階は円筒形で、面積は6.75m2、自転車置き場となる程度の物置、セントラルヒーティング用のボイラー室がある。

寝室階平面図

球形のちょうど下半分が寝室になっている。床も球形であり中心部分が下がっている。ここに寝室の入口を設けている。外側に行くと床底はあがってくるので、入口以外の部分はベッドの高さに合わせデッキになっている。

ベッドが円形の壁に組み込まれたといった雰囲気になっている。ベッドから天井までは1.1m程でかなり低い。

階段を半分上がった2.5階部分にシャワー、洗面、トイレが設けられている。こちらの天井高は2.15m程あり、そのためこの上になる居間の部分は、高さ1.2mのカウンターになっている。

居間階平面図

居間とダイニングキッチンがある。直径1.2mの大きな丸窓が4窓と小さな窓が2窓設置されている。

丸窓であるのでカーテンやブラインドを取り付けるのは難しい。それぞれの居住者が工夫して、例えば簾をつるすとか、大きな扇子を立てるとかして、シェードにしている。

どれも同じに見えるコンクリートのボールの外観にあって、この大きな窓が唯一個々の住宅の個性が見られる部分でもある。

断面図

球体であるので当然ながら音が反射して集まってくる。また構造体を軽量化したことから、遮音性は劣っている。そのため音に敏感になり、騒音公害の苦情も多いようである。


Last modified: Sat May 4 17:40:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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